研究授業で見事立証

裁判資料「第8準備書面」

 ここに掲載する裁判資料は本年(2002年)7月の仮処分勝訴と8月20日の研究授業の成功を受けて10月3日の公判に向けて提出された準備書面です。

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平成14年(ワ)第146号 休職命令無効確認・賃金支払請求訴訟事件
原告 窪田 巧
被告  学校法人聖心ウルスラ学園

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第8準備書面

宮崎地方裁判所 民事第2部合議係 御中

     原告訴訟代理人弁護士  清水 建夫
         同           成見 幸子
         同           成見 正毅
         同           野村 茂樹
         同           竹下 義樹
         同           松田 幸子
         同           東  俊裕
         同           瀬戸 久夫
         同           西田 隆二
         同           相川  裕
         同           渡辺 昇一
         同           黒岩 海映
         同           田中 省二

                  記

1.本件の争点は、きわめて単純である。被告は本件休職命令の根拠を就業規則17条3号に求めており、これに該当するか否かに尽きる。私傷病休職は1号によるべきであり、これによれば、「引き続き2ヵ月を越えたとき」という要件が必要不可欠であるが、この要件を欠いている。このため被告は3号にこじつけようとして、無理な主張を展開してきた。
本件休職命令は賃金の20%しか支給せず、賞与は全額支給しないという労働者にとりきわめて重大な不利益を与えるものであり、このような不利益処分をする場合には、重大かつ明白な合理的理由が必要である。就業規則17条3号も「特別の事情」が必要であることを明記している。本件において原告に重大な不利益処分を与えることを正当化するに値する合理的理由も特別の事情も全くなく、被告が主張も立証も出来ないのは当然である。たびたび指摘するように主張・立証責任は被告にあるが、事実そのものが存在しないから主張・立証が出来るはずがない。
本件の仮処分事件(以下「第2次仮処分事件」という)である宮崎地方裁判所平成14年(ヨ)第66号事件において、被告(債務者)の主張が不明瞭であることから、宮崎地方裁判所は被告に求釈明を行った。その結果被告(債務者)より提出されたのが甲第62号証である。これにおいても被告(債務者)が何を言っているのか分からず、支離滅裂な主張を繰り返しているのみである。

2.第2次仮処分事件において、宮崎裁判所は、申立後3ヵ月もたたない本年7月30日に原告(債権者)の請求どおりの決定をした(甲66号証)。至極当然の結論であり、本件の単純な争点からすると、本案訴訟であるからと言って、本件審理に長時間をかける必要は全くない。

3.その上、本件休職命令はすでに休職期間が満了して過去の出来事として風化しつつある。仮処分決定にもとづき2002年2月分から7月分までの未払賃金は被告より全額すでに支払われた(甲第68号証)。夏期賞与の1.2ヵ月分と昇給の問題が残っているだけであり、これは被告にとってはごく些細な金額であり、請求の拡張を待つまでもなく、被告が任意かつ誠実に支払うことを期待する。貴裁判所も被告に支払うよう勧告いただきたい。

4.現実にも、原告は8月1日から復職しており、他の教職員等同僚との関係は友好的で、円満な人間関係が再構築されつつある。原告は今後は一数学教師として、定年まで本件高等学校の生徒のために全力を尽くしたいと心底から考えている。

5.原告は違法・無効な本件解雇及び本件休職命令のため、意に反し、2001年4月から2002年7月まで1年4ヵ月にわたり教壇から離される結果となった。一般企業においてすら、労働者側の事由による休職後の職務復帰について、徐々に原職に戻れるよう準備期間、助走期間を設ける等の配慮を行っている。
本件においては、職場から離れる原因をつくったのは被告自身であり、かつ、教育現場であることを考慮すれば、被告は一般企業以上の配慮をなすべき義務がある。ところが、被告は、こともあろうに原告に対し、検証と称しての研修授業の実施を業務命令に基づき求めてきた(乙37号証の1・2)。

6.被告は、2002年1月28日自ら解雇を撤回し(甲15号証、甲32号証の8)、原告の労働者としての地位を認めた。本件休職命令は甲66号証を待つまでもなく無効であることは明白である。
原告自らの希望によるものではなく、被告の違法、無効な本件解雇通知及び本件休職命令により、教育現場から排除され続けてきた原告が、被告の検証を受任する義務はない。ましてや被告の検証はその結果によっては新たな解雇もあり得るというものであり(「債務者の和解についての考え方」8項、甲11号証)、いわば解雇事由を発見できない被告による原告の解雇事由発見のための検証であって、前述の配慮義務と根本的に相反する。

7.原告は、貴裁判所より、「これを受ける義務はないが、早期に職場復帰をするために、チャンスとして利用してみるのも一つである」とのアドバイスを受け、思い切って検証と称する研究授業を受けることを決意した。原告は初心者にもわかりやすい、すぐれた研究授業を展開した。当日研究授業に参加した県立高校の現役の高校生、本件高等学校の卒業生、数学教師、視覚障害教師等は、原告の視力低下による授業への影響をほとんど感じさせなかったこと、授業はわかりやすく、レベルが高いことに素直に驚嘆していた。

8.被告は、第1次仮処分事件においても、また、本件訴訟においても、原告の授業について一貫して次のように述べてきた。

 (1) 被告の主張「指導内容が数式である場合は、相当の時間をかければ、原告が横一列に板書していくことが、かろうじて可能であるかもしれない。しかし、図形やベクトル等を板書しながら円滑に授業を進めることは不可能に近い。」(被告準備書面(1)29頁)

被告は、検証における研究授業の内容について、数学Uの円と直線(乙33号証の別紙1)、数学Bの空間ベクトルの成分(同別紙2)を指定した。本件高等学校の生徒は大学受験で数学を選択する場合でも、数学Tもしくは数学Aで受験しており、数学Bを選択する生徒はいない。
にもかかわらず、これら範囲を指定してきたのは、視力障害教師である原告に教えることは「不可能に近い」との前記主張の考えに基づくものである。ところが、研究授業で被告の主張はことごとく否定された。
まず第1に、被告が「指導内容が数式である場合は、相当の時間をかければ原告が横一列に板書していくことがかろうじて可能であるかもしれない。」と主張した点については、甲第64号証から明白なとおり、原告は「相当な時間」をかけなくとも数式をすらすらと書いており、むしろ通常の教師よりスピーディーである
研究授業の第1時限目はベクトルの初歩的説明からスタートし、空間ベクトルの成分に至るまで実に論理的に、かつわかりやすく授業を展開している。原告代理人清水建夫は、高等学校でベクトルの授業を受けた記憶がなかったが、原告の説明が実によく理解できた
空間ベクトルという三次元の問題を視覚障害をもちながら、どのように教えることが出来るのか、原告代理人としては率直なところ、内心気がかりであったが、授業の展開は見事としか言いようがなかった。「図形やベクトルを板書しながら、円滑に授業を進めることは不可能に近い」等の被告の主張について原告代理人は「見てきたような真っ赤な嘘」の主張であると酷評したが、正に「真っ赤な嘘」であることが被告の理事及び代理人の面前で立証できた。

 (2) 被告の主張「数学の場合、生徒の質問を耳で聞くだけでは、直ちに質問の内容や意味を理解することが困難である。すなわち、数学においては、生徒の質問している図形や数式等の箇所について、教師が視覚的に共通の認識をする必要がある。しかし、原告の眼の症状では、生徒の質問に対する授業中での適切な対応が困難であった。さらに、原告は難聴であり、生徒の質問を受けながら、その内容や質問を直ちに理解し適切な指導をすることが困難であった。」(同準備書面30頁)
研究授業の第1時限空間ベクトルの成分では卒業生を含めベクトルそのものをほとんど習っていない者ばかりであり、原告がベクトルの基本から説明し、説明に終始する結果となった。第2時限の円と直線では、生徒と共に問題を解くように努力した。当日の生徒役はいわば借り物なので、生徒役の発言は少なかったが、一年間にわたり教える生徒との間では互いの応答が十分確保出来ることが明らかとなった。難聴による影響もほとんどない。

 (3) 被告の主張「原告の授業の大半は、前記の眼の症状のために、授業内容を事前に暗記して、教室では、暗記した内容を板書して、生徒に書き写させるというものであった。生徒が書き写している間、原告は机間巡視することなく、廊下に出て、廊下をうろうろしている姿がまま見られた。」「原告の授業は、暗記した内容を板書するというものが大半であったすなわち、原告の行っていた授業は、前述の通常の数学教師に求められる授業(あるいは他の教科の教師も同様と考えられる)とは、ほど遠いものである
 被告としては、生徒にこのような授業を長期間受けさせておくという犠牲を強いることはできない。また、暗記したものを、そのまま板書することが大半という授業を、生徒の保護者が容認するものではないことも、明らかである。このことは生徒の保護者の立場に身を置いてみれば分かることである。」(同準備書面29頁・31頁)

これらが、虚偽の主張であることはもはや多言を要しない。

9. 2時間余りの研究授業の中で、ただ1つ原告の視覚障害による支障が生じたことがある。それは第2時限目にコンパスで円を描いたとき、原告が円の中心として予定して印を付けていた点と別のところを中心に円を描いたため、印を付けた点が円の中心からずれたということである。生徒役の参加者の指摘を受け、円を描きなおし、その後の授業は問題なくこなした。
原告はコンパスを利用し始める際、コンパスを久しぶりに利用することを告げているが、久しぶりの利用であったためこのようなことが生じたが、その後は円の中心に注意を払い、問題なく円を描いている。

10.視覚障害の教師は板書に際し、時に間違うことがある。その場合でも授業を続ける中で生徒が間違いを指摘してくれることが多い。

(1) 全盲の生井良一(嘉悦女子短期大学、理学博士)は、自己の板書の経験を次のように述べている。
 「私としては、ただ字と字が重ならないように注意する必要があります。私は字と字の間は意識して少しあけるようにしていました。もし重なった時は、『先生、重なってる』と学生が声をかけてくれました。またこんな事がありました。洗剤の『剤』と書くべきところをまちがえて『済』と書いてしまったところ、ただちに『先生、その字は違います』と声が飛んできたのです。こんなふうにして最初の年は、学生との息も合って、充実した静かな授業ができました。そして私は、教師としての自信もついたのです。」(甲61号39〜40頁)。

 (2) 視覚障害教師の会は、視覚障害教師の実践にもとづき次のとおり授業と生徒との関係について指摘している(甲61号証)。
  @ 教師の活動の主たるものは授業である。それは、生徒との信頼関係が深まれば深まるほど展望が開かれてくる。それにはたえず授業の工夫をすることと、生徒たちのコミュニケーションの工夫が必要である。言い替えれば、生徒たちをいかにして授業にかかわらせるかということになる。実際の行動によって彼らをそこへと引き込んでいくことが大切である(64頁)。
  A 授業の流れの中での資料の提示は、教師自身の手でおこなえるものもあるが、できれば生徒たちの手を借りるようにすることが方法の一つになりうる。それが彼らとの接点の広がりへと発展しうるからである(29頁)。
  B プリントの原文を口述して生徒に代筆させプリント原稿づくりをする教師もいる。様式などをふくめ、具体的に指示すればさほどむつかしいものではない(64頁)。
  C 文献の読みとりも生徒に手伝ってもらうことでもできる。それらに当たる生徒たちを特定しておくよりも、不特定多数に呼び掛けるようにしたほうが良い(65頁)。

11.被告は、被告側が評価者と称する者の評価を9月20日までに提出すると述べているが、これらの者はあくまでも被告側の参加者の一員であり、客観性、公平性が担保されていない。研究授業の当日も、研究授業の前と後に被告側理事や代理人と応接室で打ち合わせを重ねていた。また、この研究授業は原告の採用試験でも昇級試験でもないから授業評価表にもとづいて点数をつけること自体ナンセンスである。本件訴訟の期日をこの評価書の提出をまって決めるということも同様にナンセンスである。これらは、本件の争点とおよそかけ離れたところに迷走するに等しい。

12.被告側理事は、最近、原告に対して2学期中は教壇に戻さない旨述べている。原告は貴裁判所の助言を受け、職場復帰が早くなることを期待し、検証と称する研究授業を行った。被告の態度がこのようなことである限り、本件の訴訟手続は本来の争点と離れたところで利用され、結果的には問題の先延ばしに利用されるにすぎないことになる。

13.以上の理由により、原告は本件休職命令の有効・無効に関する審理は審理として進めることを希望するので、10月3日午後3時30分を口頭弁論期日と指定し、被告に主張・立証を促していただきたい。
 原告本人は、裁判所の勧告に従い、研究授業を行ったが、被告の理事の頑なな態度にはがっかりしている。原告は職員室で座って無為な時間を過ごしている。原告のような優れた教師に授業を持たせないことは、被告にとっても損失であり、ましてや本件高等学校の生徒にとっては不幸なことである。生徒たちは、原告に教えてもらうことを求めている。裁判所においては被告に原告を速やかに教壇に戻すよう強く勧告されたい。

                              以上

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