窪田さんは、本年(2002年)3月宮崎地裁に本訴(休職命令無効確認を求める)と平行して仮処分申請(休職期間中の給与の全額を仮に支払うことを求める)を行ないました。 「決定」と題する以下の文書は7月に出された仮処分の決定です。文中債権者とは窪田さん、債務者とは学校法人聖心ウルスラ学園のことです。決定は窪田さん側の主張がほぼ全面的に認められた内容になっています。
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宮崎県延岡市下伊形町6059番地5
債権者窪田巧
同代理人弁護士清水建夫
外12名
宮崎県延岡市緑ヶ丘3丁日7番21号
債務者学校法人聖心ウルスラ学園
同代表者理事江藤スミ子
同代理人弁護士三浦啓作
同近藤日出夫
外4名
1債務者は,債権者に対し,金[ーー]円を仮に支払え。
2申立費用は債務者の負担とする。
債務者は,債権者に対し,金[--]円及び平成14年5月1日から同年7月31日まで毎月21日限り,金[--]円宛の金員を仮に支払え。
本件は,債務者において勤務している債権者が,同人に対する休職命令が無効であるとして,債務者に対して,労働契約(危険負担の法理)に基づいて,平成14年2月1日から同年7月31日までの休職期間中の支給賃金との差額分の仮払を求めている事案である。
(1)債権者は,昭和25年4月4日生まれで,昭和50年4月に債務者が経営する高等学校(当時の校名は緑ヶ丘学園高等学校)に数学教師として採用され,期間の定めのない労働契約が締結された。
(2)[省略]
(3)[省略]
(4)債権者は,債務者から,精神又は身体の障害等により業務に耐えられないとして,就業規則第25条1号に基づく解雇の通告を内容とする平成13年7月26日付けの「解雇通知」と題する内容証明郵便を同月28日に受領した。
(5)債権者は,上記解雇につき,同年9月25日付けで,当庁に地位保全賃金仮払仮処分命令(平成13年(ヨ)第124号事件,以下「保全事件」という。)を申し立てた。
(6)債務者は,平成14年1月15日付けで,保全事件の裁判所に「債務者の和解についての考え方」と題する,債権者の解雇の撤回及び休職命令を内容とする書面を提出し,同月28日に債権者の解雇の撤回,就業規則17条3号及び18条2号に基づく同年2月1日から同年7月31日までの間の休職命令(以下「本件休職命令」という。)並びに休職期間中給料及び諸手当月額の20パーセントに相当する金員を支給する旨を内容とする「準備書面4」を,上記保全事件の関係で債権者代理人である清水建夫にファクシミリで送信するとともに,「通知書」と題する同内容の内容証明郵便を送付し,同月29日,同郵便は債権者に到達した。
なお,債務者は,休職に関し,就業規則にて,@業務外の傷病により引き続き欠勤2か月を超えたとき(1号),A自己の都合により学園が認めたとき(2号),Bその他特別の事情により理事長が休職させることを必要と認めたとき(3号),休職を命じると定めている(以下,休職事由については単に「3号」などという。)。
(7)債権者は,同年2月1日付けで,保全事件を取り下げた。
(8)債権者は,同年3月22日,上記仮処分の本案として当庁に休職命令無効確認・賃金支払請求訴訟を提起し,現在係属中である。
(9)[省略]
(10)休職期間中,債務者から支給されている賃金は,諸手当を含め本来の支給分の20パーセントであり,債権者主張の差額分が支払われていない。なお,賃金の支払日は毎月21日である。
(1)3号に基づく本件休職命令の有効性(争点1)
(債務者の主張)
債権者が発病している両眼[--病名を省略]は,視野狭窄,視力低下等の症状を呈し,これは進行するぱかりで回復不可能なものであり,治癒,回復を前提とする1号による休職は考えられない。
ところで,数学教師は,生徒が内容を理解しているかどうか等を常に把握し,黒板などに図形等を図示するなどしながら授業を進めなければならず,また家庭学習の成果を通常ノートやプリント等を用いて確認し,適切な指導をする必要があるところ,債権者は,上記疾病のため生徒の表情が分からずノート等に記載された文字を読みとることができない。しかも,債権者は,通常の数学の教師が担当している程度の授業時間を担当することができず,校務も殆ど行えない。
したがって,債権者は,数学教師としての労務提供能力を喪失している。
また,債務者は,上記の事情に加えて,債権者がリハビリテーション(以下「リハビリ」という。)受講を希望していたことから,この申出を真摯に受け止め,労務提供能力の回復のためのリハビリを受けさせるため休職を命じたものである。
このように,債権者には,3号所定の「特別の事情」があるから,本件休職命令は有効である。
(債権者の主張)
私傷病休職の場合は,1号によるべきであるが,本件ではそもそも欠勤の要件を満たしていない。3号による休職の場合でも,1号に準ずる程度の事情がなけれぱ休職を命ずることはできないが,債権者には労務提供能力はある。
リハビリの点は,以前,職業訓練たるリハビリの受講希望を債務者に対して伝えたことはあるが,その後リハビリの受講希望はなくなっており,債権者は債務者に対して,本件休職命令の以前にこの旨通知しているのであるから,債務者の主張は,以前の債権者の主張を奇貨としてなされたものにすぎない。
したがって,本件休職命令は無効である。
(2)保全の必要性の有無(争点2)
(債権者の主張)
[一部省略],本件休職命令が平成14年8月1日から解かれるからといって,賃金の差額について保全の必要性がないとはいえない。
なお,日本私立学校振興・共済事業団(以下「私学共済」という。)の傷病手当金の請求の点にっいては,支給条件として休業が療養のためであることが要求されており,その認定は医師の意見によることを原則としていることなどからすれぱ,本件が傷病手当金の支給条件を満たすかどうか明らかでないことに加え,そもそも債権者が無効な本件休職命令に従って傷病手当金の支給を申請する必要はない。
(債務者の主張)
[一部省略],また,本件休職命令が平成14年8月1日から解かれることからすれば,保全の必要性は認められない。
また・債権者は,休職期間中,私学共済の休業給付金の請求手続をすれば債務者から支給される給与(給料及び諸手当の100分の20)と合わせて標準給与額の約100分の80に当たる金員を受け取ることができるのに,これを怠っていることからすれぱ,この点からも,保全の必要性は認められない。
1争点1(本件休職命令の有効性)について
(1)債務者は,私傷病を原因とする労務提供能力の喪失を理由として3号による休職事由を主張しているところ,傷病休職として一定期間の欠勤を条件として1号を規定している趣旨,これとは別に3号を規定している趣旨及びこれらの関係に加え,休職が大幅な減給等の不利益を伴う処分であることなどを総合考慮すれぱ,この場合の3号所定の「特別の事情」があるといえるためには,1号の場合と実質的に同視できる程度に通常勤務を行うことに相当程度の支障をきたす場合であることが必要であると解するのが相当である。
そして,本件休職命令発令時において,上記休職事由が存在することについては,債務者がその立証責任を負うものであることはいうまでもない。
そこで,これを本件についてみるに,確かに,説明資料によれぱ,紛争が生じたころ,債権者の受け持っ授業時間数や校務が減少し,若手の教諭が債権者の校務を補助しているなどの事情があったことが一応認められるとともに,債権者の視力・視野障害が債権者の授業態様等に影響を及ぼしていることも窺えないではなく,このように債権者の勤務遂行上一定の支障をきたしているものであることは否定できないものの,
全説明資料によっても,これらの障害による勤務に対する具体的な支障の程度は必ずしも明らかではないうえ,債権者は,昭和60年ころ,視力に異常を感じ始めた後も,平成13年3月まで,基本的には,相当の長期間にわたり数学教師として通常勤務を行っていることが一応認められるから,債権者が労務提供能力を喪失しているといえないことはもとより,前記事情を十分に考慮しても,未だ1号の場合と同視できる程度に通常勤務に相当程度の支障をきたしているとまではいうことはできないし,他に,これを認めるに足りる的確な説明はない。
(2)また,債務者は,上記主張に加えて,債権者のリハビリ受講の申し出に基づいて本件休職命令を発した旨主張するが,説明資料によれぱ,保全事件申立以前の,平成13年7月ころ,債権者は,職業訓練たるリハビリの受講希望を債務者に対して伝えたことがあり,また,保全事件の審理の際にも,リハビリの機会も与えずにいきなり解雇するのは不当である等主張したことはあるが,
債権者が当時リハビリ施設として念頭においていた京都ライトハウスでは一般的な生活訓練が主体で通常1年間の入所が必要であることや,既存の施設では有効な職業訓練を受けることができないと判明したことなどから,その後リハビリの受講希望はなくなっており,債権者は債務者に対して平成14年1月18日及び同月21日付けの書面で休職の意思も必要もないことを通知していることが一応認められるのであるから,
債務者が前記「和解についての考え方」において,債権者の解雇撤回及び本件休職命令を提案した後ではあるものの,債務者が債権者に対して本件休職を命じた時点以前に,債権者は債務者に対して休職を伴うリハビリを希望しないことを既に伝えているというこれらの経緯に照らせぱ,債務者が,債権者の申し出に基づいて本件休職を命じたものと認めることは到底できない。
(3)以上のとおり,債務者主張の事由は,3号所定の休職事由に当たらないし他に,同事由の存在につき説明はない。
したがって,本件休職命令は無効というほかない。
2争点2(保全の必要性)について
説明資料によれぱ,保全の必要性を認めることができる。
もっとも,債務者は,@[一部省略],本件休職命令が平成14年8月1日から解かれること,A債権者が私学共済への請求手続を怠っていることを理由に保全の必要性は存しないと主張するが,
@の点は,[一部省略],Aの点は,少なくとも,請求手続は休職事由が存することを自認するものであるから,債権者にそのような請求すべき義務はないことに照らせぱ,上記債務者の主張は採用しない。
3 そうすると,債権者の実際の受給金との差額の賃金は前記のとおりであるから,債務者は,債権者に対し,[--]円を仮に支払うべき義務がある(なお,債務者が,十分な根拠なく,労務提供の意思及び能力のある債権者に対し,その受領を拒んでいることは明らかである。)。
4 よって,本件申立は理由があるから,主文のとおり決定する。
平成14年7月30日
宮崎地方裁判所民事第1部
裁判長 裁判官金光健二
裁判官 武田義徳
裁判官 蛭田円香
これは正本である。
平成14年7月30日
宮崎地方裁判書
裁判所書記官 佐藤久晴
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[省略]の部分は病名、病状、家族の状況、経済事情に関する記述で、編集者が省略しました。
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